第12章 【ミカヅキノヨル】
終電を降りて家路につく。
すっかり眠りについた住宅地を1人歩く。
空を仰ぐと三日月が目に留まる。
細く繊細な、どうしようもないほど哀れな三日月は、苦々しい過去を思い出しオレの心を掻き乱す。
うっ……!
突然の嘔吐感に襲われ、道路の端にしゃがみこむ。
言いようのない不安感が胸をいっぱいにして全身を震わせる。
ダメだ……見るなっ!
不安感から逃れるように目を閉じて、それから震える手でタバコに火を付ける。
フーッとゆっくり煙りを吐き出して、ダッセーの、そう独り言で毒を吐く。
ったく……自宅近くで誰かに見られたらどーすんだよ……そう頭を抱えて顔を隠す。
過去に捕らわれる自分、思い通りにならない身体、埋めようのない心……
自分の意志と反して目から涙が溢れ出す。
なんなんだよ、いい加減にしてくれっての!
オレをいつまで苦しめるっていうんだよ!?
いつになったら解放してくれんだよ!?
どーせ、誰も楽にしてくんないんだよ……
んなこと分かってるっての……
分かってて愛想振りまいて、天真爛漫よそおって、その裏でバカな女どもを次から次と抱いて蔑む。
んでもって精神安定剤替わりにタバコ吸って気を紛らわせて……
ほーんと、どうしようもないバカはオレじゃんか。
不安感はいつしか絶望感へと変わっていた。
道路にタバコを落とすと足で踏んでその火を消す。
制汗剤を振りまいて煙の臭いを誤魔化すと、自販機で水を買って口と手を洗い、ガムを口に放り込む。
……もうみんな寝てっから、こんぐらいで大丈夫だろ。
そう顔を上げて立ち上がる。
できるだけ空を見上げないように、足元に視線を落とす。
大きく深呼吸をし、頬を両手でパチンと叩く。
大丈夫だって、もう何ともないよ、そう自分に言い聞かせ、震える身体に気づかない振りをして自宅へと急いだ。