第68章 【ムナサワギ】
「どうかしたんですか……?」
「……え?」
「携帯、すごく怖い顔して見てましたよ……?」
ハッとして手の中の携帯を慌ててポケットに押し込んだ。
別に分かるはずないんだから隠す必要ないんだけれど、なんとなく彼女に無言電話のことを見透かされてしまいそうで……
「……別に、ちょっと……考え事をしていたものですから……」
必死になんでもないふりをして笑顔を作った。
作ったつもりなんだけど、多分、私、ちゃんと笑えてない……
無言電話で気持ちが弱っているところに、思いがけない鳴海さんの登場で、動揺する心を抑えきれない……
気にしないようにして来た。
私が大好きな英二くんのことを好きな人……
そして英二くんが好みのタイプだってはっきり言って、一度だけでも関係を持った人……
でも本当は気にしないなんてできっこなくて……
私の目の前で英二くんが嬉しそうに抱きついて、それからその手をとって背を向けた……
一気に蘇るあの日の光景、そしてキスマーク……
まだセフレのとき、好きと声にできない私に、冷たく言い放った英二くんの声……
『芽衣子ちゃんはオレに抱かれながら散々言ってくれたけどね……』
慌ててブンブンと首を振って全てを脳裏から追い払う。
ダメ、顔にも態度にも表したら、変に思われる……!
あれは英二くんが私に当て付けでしたこと、そして誘われたから応じただけ……
それから不安定な気持ちを私にぶつけただけだから……
必死に心を落ち着かせようと大きく息を吸い気持ちを立て直した。
「何か、用ですか……?」
久々に出た心を閉ざした時の声。
そうじゃなきゃ、この人とまともに向き合えない……
硬い表情のまま、真っ直ぐに鳴海さんの可愛い顔を見つめる。
そんないっぱいいっぱいの私とは対照的に、彼女はふふっと余裕そうな笑みを浮かべて、用ってほどじゃないんですけど、少し小宮山先輩と話してみたくて……、なんて言ってジッと私の顔を見つめ返した。