第68章 【ムナサワギ】
『えー……じゃあネコ耳はー?』
『……ネコ?』
それは夏休み最終日、いつもの公園、東屋のベンチでした2人の会話。
あの時、去年の学園祭を思い出しながら、冗談でそんな話をした。
冗談で、今年こそメイド服着たら?、みたいな話になって、嫌がる私にそれならって……
でも冗談だと思っていたのは私だけだったようで、英二くんはもうあの時からこの計画を企てていたに違いなくて……
そうあの時にみせたニヤーっという意味ありげな笑みと、今、まさに目の前で見せている英二くんの笑顔がピタリと重なりあう。
男もつけんのかよ?、やだキモイー!、クラス中から沸き起こる意見は一見否定的な内容なのに、その笑い声はみんな満更でもなさそうで、んじゃ、ネコ耳たこ焼きで決定〜!、そう言って英二くんは嬉しそうに席に着く。
もう、本当に英二くんはとんでもないことばっかり言うんだから……、そう頬を膨らませてそっぽを向けた私のポケットの中で、携帯がブブッと短くバイブを鳴らす。
「ごめんって、でも小宮山のネコ耳、絶対かわいいよん?」
恨めしく思いながらチラッと英二くんに視線を向けると、彼は相変わらずニヤニヤと笑っていて、全然悪いと思ってないじゃないですか!、そう返信しながらますます頬を膨らませた。
「ねぇねぇ、不二くんってネコ耳好きなの?」
突然声をかけて来たのは前の席の女の子。
その質問になんて答えていいか分からず、それは……、なんて口ごもってしまう。
当然、英二くんの言った「彼氏が喜ぶよん?」の「彼氏」は英二くんのことだけど、他の人からしたらそれは不二くんのことになるわけで……
でも不二くんがネコ耳を好きかなんて分からないし、そもそも、もし好きだとしても勝手に答えるわけにはいかないし……
あーあ、不二くんに怒られたって知りませんよ?、ポツリと呟くと英二くんが青い顔をする。
「うわっ!みんな、今のはオレの趣味!不二は関係ないよん!」
慌てて立ち上がり先ほどの発言を訂正した英二くんに、クラス中から再度笑いが沸き起こる。
そんな英二くんの向こうで、今度は美沙が机を叩いて大爆笑していた。