第68章 【ムナサワギ】
「英二〜、今日も芽衣子ちゃんとお昼休みにイイコトすんの?」
「まーだ、そんな古いこと言ってんのー?、そんなんじゃ次の話題に乗り遅れるよん?」
美沙と教室に向かう途中、ふと後ろから聞こえた会話にハッとして振り返る。
目に飛び込んできた赤みを帯びた茶髪の外ハネ……
あ……、思わず立ち止まると、私に気がついた英二くんがニィッと嘘のない笑顔を見せる。
「おはよー、小宮山さん!ついでに市川も」
「はぁ〜、私はついでー?」
「あったりまえじゃん!」
それはもうすっかりいつもの英二くんで、昨日のグッタリした姿なんて全く感じられないその様子に、良かった……、そう安心してホッと胸をなでおろす。
おはようございます、菊丸くん、挨拶を交わす笑顔に思わず安堵の涙が混ざり、そっとそれを指で拭った。
「……市川、悪いんだけどさ、ちょい見張っててくれる?」
「あんな顔されちゃねー……ちょっとだけだよ?」
そう言って英二くんはキョロキョロと周りを確認するから、なんだろう?なんて首を傾げていると、不意に彼の手が私の腕をグイッと引っ張る。
え?って思った時にはすぐそこの扉の中に連れ込まれていて、びっくりして、英二くん!?、そう思わず声をあげそうになると、慌てて彼は私の口を手で覆い、しーっと唇に人差し指を当てた。
あ、この感じ、懐かしい……
そらはまだセフレだった頃、何度か繰り返された光景……
それにここ、前に英二くんに連れ込まれて、不二くんに助けてもらったあの階段下の倉庫だ……
え?、まさか、英二くん、あの時みたいに……なんてことないよね……?
すぐそこに美沙がいるんだし……、そんな風に頭の中は大混乱で、挙動不審になってしまう。
「大丈夫だって、さすがにもう学校ではしないからさ、キスだけさせて……?」
心配、かけてごめんな?、そう言って英二くんは私の口を塞いでいた手を頬へと移動させると、それからフワッと優しいキスをしてくれる。
ギュッと抱きしめられたその腕の中でフルフルと首を横に振ると、守ってもらって、本当にありがとうございました、そっと呟いてまたキスを交わした。