第67章 【ユウアイ】
「市川、小宮山から聞いたの……?」
『聞き出したの!』
確かに小宮山から話すわけないよな……
市川が気がついて、小宮山にカマかけたとかそんなところか……
そう納得すると同時に、ざわりと心の奥でなにかがざわめく。
小宮山、市川にどこまで話したんだろう……?
普通の恋人同士には程遠いオレたちの経緯、まさか小宮山が全部話すはずはないけれど……
「……市川、どこまで聞いた?」
『何ー?、私に知られちゃ不味いことでもあるの?』
「な、何、言ってんだよ、そんなものないぞ!」
『おもいっきり、ありますって聞こえるんですけど?』
ガサツなくせに割と鋭い市川のその言葉に、ギクッ、なんて思わず口をついてしまう。
そんなオレに市川は相変わらずケラケラ笑い、安心しなって、璃音が言い辛そうなことは、無理に聞き出してないからさ、なんて続けた。
確かにこの反応は小宮山を襲ったこととか、オレの過去なんてなんもしんない反応だよな……
そんな市川の反応に、ホッと胸をなでおろす。
「つうか、いいから早く小宮山に変わってよ」
『まぁまぁ、もう少しこのおばさんとも話をしてくださいよ』
「もういいって、さっさと変われってば」
ずっと市川の向こうで聞こえる、あの、その、そんな小宮山の困っている声。
きっとオロオロしながら、市川の後ろで右往左往している。
『ところで菊丸くん、モテるくせに全然彼女を作らず、ゲイ疑惑まで浮上していたあなたが、小宮山さんのどこを気に入ってお付き合いすることにしたんですか?』
市川のやろう、完全に面白がってんな……
苦笑いしながら聞き流すと、もう、美沙っ!、そう後ろで聞こえた小宮山のちょっと怖い声……
ごめん、ごめんってば、そう言って笑う市川から小宮山に携帯が渡った気配がした。
『もしもし、英二くん、あの……』
やっとはっきり聞けた小宮山の声……
ホッとするその声に疲れ切っていた心が一気に潤っていく……