第67章 【ユウアイ】
「……くん……丸くん!……菊丸くん!!」
名前を呼ばれて顔を上げる。
目の前にはオレの顔を覗き込む店長の怪訝な顔。
どうしたの、ボーッとして……、そう少し心配そうな顔をする店長に、やばって慌てて頭を下げる。
「すみません、今日、オレ、学校で色々あって、なんか疲れちって……」
「まあ、今時は高校生も大変だからね、でもお客さんの前では気をつけてよー?、菊丸くん目当ての女性客、増えてんだから」
ほーい、そうオレらしい返事をして頬をパチンと叩く。
気を引き締めなおすと、いらっしゃいませー!、そう菊丸印の満点笑顔で店内に声を響かせる。
オレのバイト先は青春台から数駅離れた駅前のレンタルショップ。
バイトを探そうと思った時、サービス業ならなんでもこなせる自信があったし、飲食店やカラオケ屋とか、いろいろ候補はあったんだけど、雑誌やお菓子なんかがバイト割引で買える嬉しい特典があるからここに決めた。
笑顔を作るのは得意だし、人と接するのも嫌いじゃない。
面倒な時もあるけれど、そこは仕事と割り切ってしまえば問題ない。
店長も先輩たちも、みんないい人で可愛がってもらってるし、いいバイト先、見つかったなーって気に入っている。
だからいつも笑顔は絶やさず、元気一杯仕事に励んでいるんだけど、さすがに今日は精神的にキツくて……
学校で散々逃げ回った昼休み、なんとか小宮山を乾に託して守ることが出来たのは良かったんだけど、その後の学校中から注がれる好奇の視線にすっかり疲れて充電切れ。
午後の授業も休み時間も、鳴り止まない携帯のバイブにイライラしながらずっと机に突っ伏していた。
ずっと全身に注がれる視線の中に、小宮山のオレを心配する視線も混ざっているのは気がついていたけれど、そんな視線の中だからこそ小宮山をチラッと見ることもできなくて……
終礼と同時に飛び出した教室、小宮山のほうを一瞬だけ振り返った。
目があった小宮山は泣きそうな顔をしていて……
だけどすぐに教室内から沸き起こったオレの名前に慌てて視線を反らせて走り出した。