第67章 【ユウアイ】
「私、そう言うの、許せない……」
静かに、淡々と発せられた美沙の声は私の身体の中心まで突き刺さる。
嫌がらせされている私を気にかけてくれた……
その相手にしっかりと抗議してくれた……
諦めている私を叱ってくれた……
クラスのみんなにおかしいって意見してくれた……
曲がった事が大嫌いで、自分をしっかり持っている美沙だから、私と英二くんが不二くんを裏切っているこの状況を許せないのは当然の話で……
そんな美沙が大好きで、失いたくなくて……
すぐに誤解を解きたいのに、彼女の冷たい言葉にどうする事も出来なくて……
「もういいよ、璃音、手伝ってくれてありがとう」
ビクッと身体が跳ねる。
気がつくと美沙は私が動けないでいる間も黙々と作業を進めていて、あんなにあったプリントの山はもう最後の一組になっていた。
これでおしまい、そう言ってパチンとそれを仕上げると、トントンっと全ての山を揃える。
これでおしまい、その美沙の言葉に不安で胸が押し潰されそうになる。
それは本当にこの仕事のことだけ……?
それとも、私との、友情……?
恐る恐る顔を上げると、美沙は机の中の教科書類をしまい始めていて、あんなに真っ直ぐに私を見ていたその視線は、すっかり伏せられていて……
それはまるで、もう私の姿をその瞳に映したくないと言われているようで……
「私、これ、先生に提出したら帰るから」
それじゃ、淡々とした美沙の声。
一度も視線が合わないまま、プリントとカバンを手に私の横を通り過ぎる。
その瞬間、ヒンヤリとした冷たい空気の動きだけが感じられた。
それは……軽蔑、そして拒絶の表れ……
……美沙、なんとか振り絞った声にすら、なんの反応も示さない。
違う、違うよ……違うんだよ……
言わなくちゃ……ちゃんと伝えなくちゃ……
失くしちゃう……また失っちゃう……
やっと手に入れた、英二くんのは別の、もう一つの光……!
ギュッとスカートの裾を握りしめて、必死に唇を動かす。
だけどそこから溢れるのは、やっぱり頼りない吐息だけだった。