第67章 【ユウアイ】
「璃音、私に隠してること、ない?」
真に迫る美沙の質問、プリントを持つ手が震え、数枚が足元へと舞い落ちる。
あ……、そう慌てて拾おうと身をかがめて手を伸ばすと、一瞬はやく美沙の手がそれに届き、私の前にスッと差し出した。
「今日、英二とお昼休みに一緒にいたの……璃音でしょ?」
ずっとバクバクと大きく脈打っていた心臓が、その瞬間、直接握りしめられたかと思った。
「な……に、言って……、私は、生徒会で……」
数秒の沈黙……
まるで美沙の視線に縛られたかのように身動きが取れなくて……
なんとか視線を反らせて言葉を振り絞ったけれど、それでも美沙の真っ直ぐな視線が突き刺さりつづけて……
「私、見たの、英二が女の子抱えて走ってるところ……、その子、璃音のその靴下と同じワンポイントの靴下履いてた」
私、視力、両方2、0だから……、そう言って美沙は差し出したままの、私が受け取ることが出来ないプリントを机の上に置き、それから手元の作業を再開する。
顔は見えなくても、私には分かるよ、アレは璃音、そうゆっくりと呟いた美沙の言葉からは、揺るぎない確信の意志が感じられた。
「……不二くん、さすがにキツイでしょ、彼女と親友に裏切られるってさ」
フーッと響く美沙の深いため息、ち、違うっ、慌てて首を横に振る。
違う、違うの、美沙、そんなんじゃないの……!
私が本当に付き合ってるのは……本当に大好きなのは……英二くんなの……!
そう言いたいのに、どうしても言葉は出てこなくて、でも、ちゃんと言わなくちゃ、誤解は解かなくちゃ、そう思うんだけど、やっぱり出てこなくて……
ただ、何度も首を横に振るしかできなくて……
「私、そういうの、許せない……」
プリントとまとめる紙の擦れる音と、ホッチキスの針の金属音、それだけが聞こえる教室内に、小さく呟いた美沙の低い声が響きわたる。
私の耳に届いたその美沙の声は、実際の音量よりずっと大きいものに思えて仕方がなかった。