第67章 【ユウアイ】
「ったく、今日はこのプリント、まとめてホッチキスで止めるってあれほど言ったのに、あのバカっ!」
私が重ねた数枚のプリントを、美沙はトントンッと乱暴に揃えながら、沼田くんへの怒りを込めて、力一杯ホッチキスでバチンととめる。
「それでも沼田くん、よくやってるじゃないですか」
「……まぁ、璃音の時に比べればね」
私の時は一切学級委員の仕事をしなかった彼が、美沙に文句を言われながらも、渋々働いている様子を思い出しクスクス笑う。
そんな私に呆れ気味に返事をした美沙は、でも許さん!、そうまたバチンと乱暴にホッチキスをとめた。
「ったく、沼田が逃げないようマークしてたのにさ、英二の逃走劇と桃城の乱入にちょっと気を取られた隙にさぁ……」
ブツブツ言いながら作業する美沙に、ごめんなさい、そう心の中で謝まると、しかし、英二の彼女を桃城も好きとはねー……修羅場じゃん、なんて言って美沙は面白そうにニヤリと笑う。
普段、人の噂話なんてしない美沙ですらこの話題を出すのは当たり前の流れで、でも私はそれを愛想笑いで聞き流すしか出来なくて……
美沙、本当はね、英二くんは私と付き合っているんだよ……?
今まで何度も事実を打ち明けようか悩んできた。
美沙は大切な友達なのに、ずっと騙してるのは心苦しくて……
だけど、どうしても本当のことは言えなくて……
美沙を信用していないわけじゃないんだけど、どうしても自分の苦い過去がチラついて……
第一、英二くんの過去には触れられない以上、中途半端なことは言えなくて……
ごめんね……、結局また謝罪の言葉を心の中で繰り返し、手元のプリントへと視線を落とす。
「……璃音、今、なに考えてる?」
ふと聞こえた美沙の少し低い声。
ハッとして顔を上げると、美沙は真っ直ぐに私を見ていて……
その目は何度も私に向けられた、真剣に私と向き合う時の視線で……
そのまっすぐな美沙の目を見ていられなくて、慌てて視線を泳がせると、そのままもう一度手元に視線を戻した。