第12章 【ミカヅキノヨル】
コンコン
ドアをノックする音に慌てて涙を拭い、はい、と返事をする。
璃音?とお母さんがドアを開けると同時に、みゃあとネコ丸が勢いよく飛び込んでくる。
「ネコ丸、ドアをカリカリして入りたがってたわよ」
「あ……ごめんなさい、気がつかなくて……」
そう言って私の膝に飛び乗ったネコ丸を撫でると、ゴロゴロと甘えた音を鳴らす。
「どうしたの?……灯りもつけないで……」
「……月を、見ていたの……」
そう言ってもう一度空を仰ぐと、そう、と呟いたお母さんがそっと私の髪を撫でた。
「……何かあった?……って聞いても何も言ってくれないんでしょうね……」
そう言ってお母さんは少し寂しげな笑顔で私を見下ろすから、ごめんなさい……そう目を伏せて答える。
「あなたはなんでも自分で抱え込んでしまうものね……」
そう言うお母さんの視線が、私の首元のしるしに向けられた気がして、気まずさから無言で俯くと、そんな私の頭をお母さんはポンポンと撫でて、それからゆっくりとドアへとむかう。
今夜は早く寝なさいね、そう言ってドアを開けたお母さんは、出て行く間際にもう一度口を開く。
「璃音、若いうちはいっぱい悩んで、いっぱい泣きなさい」
「え……?」
「だけど、決して後悔しない恋愛をするのよ」
お母さん……そう呟くと堪えきれずに目から大粒の涙が溢れ出す。
そんな私に、忘れないでね、お母さんもお父さんも何があってもあなたの味方だから、そう微笑んでお母さんはそっとドアを閉めた。