第66章 【トウソウゲキ】
「もう落ち着きました……?」
中庭のベンチに項垂れて座る桃城くんに、自販機で買ったおしるこの缶を差し出しながら問いかける。
本当にこれで良かったんですか?、そう苦笑いする私に、桃城くんは「ッス」っと頭を下げると、それからグビグビと一気に飲み干した。
「小宮山先輩、すんません、オレ、カッとなったらもう訳わかんなくなって……」
「もういいですよ、幸い気付かれなかったようですし……でも気をつけてくださいね?」
特に今は、英二くん、大変ですから……、桃城くんの隣に腰を下ろすと、そう呟いて木々の枝葉の先の空を眺める。
すっかり高くなったその秋空の青と、ほんのり色づき始めた広葉樹の淡い赤……
秋の醸し出すどこか切ない雰囲気と、自分の今の心境がちょうど合わさって、ふうっと軽くため息が溢れる。
「桃城くん、今日、英二くんと一緒にいたのは私です」
周りを気にして誰も近くにいないことを確認すると、そうひっそりと、でもしっかりと声にする。
考えたら堂々と「今日、昼休みに倉庫でえっちしてました」って宣言している事と同じなんだから、すごく恥ずかしいんだけど……
でも鳴海さんを好きな桃城くんの気持ちを思うと、ちゃんと訂正してあげたくて……
そんな私の言葉にハッとして顔を上げた桃城くんは、だって、鳴海が、そう声を上げるから、でも私です、ともう一度その声を静かに打ち消した。
「どうしても信じられないと言うのなら、乾くんに聞いてもらえれば、証明できると思います」
私の言葉だけでは半信半疑の様子だった桃城くんも、乾くんの名前を出した途端、納得せざるを得ないようで……
そんなところでも、テニス部のみんなの信頼関係の厚さが伺えて、やっぱり素敵だなって思う。
つまりは、桃城くんは英二くんの女性関係に関しては、全く信用していないってことだろうけど……
英二くんきっと、桃ーーー!?って怒るだろな……、そう思ったら可笑しくて、心の中でこっそり苦笑いをした。