第66章 【トウソウゲキ】
「でも、だったらなんで鳴海は……」
「それは分かりませんけど……」
混乱している桃城くんのその疑問に、ゆっくりと首を振る。
どうして鳴海さんが自分だと噂を肯定したのかはわからない……
もしかしたら、英二くんのようにうんざりして、ヤケになったのかもしれないし、ただ否定するのが面倒だったのかもしれない……
でも、もしかしたら……
きっとまだ……英二くんが大好きで……
否定、したくなかったのかも……?
大好きな人との噂、例え本当のことじゃなくても、自分の口で、「違う」って言いたくなかったのかもしれない……
「桃城くん……鳴海さんに想いが届くといいですね……?」
ゆっくりと、静かに呟いた言葉……
足元にまだ散るには早い赤い木の葉がハラリと舞い落ちる。
う、へ、何言ってるんすかっ!、そう桃城くんは耳まで真っ赤になって、それから思いっきり視線を泳がせると、だぁーーーっ!っと叫びながら立ち上がり、だからそんなんじゃ、無いっすよ!なんて頭を掻きながらオタオタする。
「そんな真っ赤な顔じゃ、説得力、無いですよ?」
そう言ってクスクス笑うと、彼は大きく広げた手のひらで顔を覆い、マジっすか……、そうポツリと呟いて、それから観念したように、はあーっと大きなため息を落とした。
「鳴海さん、可愛いですし、桃城くんとお似合いだと思いますよ……?」
頑張ってくださいね、そうもう一度桃城くんに笑いかけると、彼はやっぱり真っ赤な顔をして、っす、そう小さく頷いた。
そんな桃城くんを微笑ましく思いながら、……私ってやっぱり性格悪いな、そう自己嫌悪で胸が苦しくなる。
だって、私、心から桃城くんの幸せを祈って応援しているわけじゃ無い……
本当は、鳴海さんが桃城くんに心変わりして、英二くんのこと、忘れてくれればいいって、そう願ってるんだもん……
ジワリ、ジワリ、どんどん侵食してくる嫌な感情……
桃城くん、ごめんなさい……、そう作った笑顔が影を落とした。