第66章 【トウソウゲキ】
「ま、まぁ……確かに味の改善の余地はあるが、英二は乾汁に免疫がある……死ぬことはないだろう」
「そういう問題ではありません!」
私の勢いに押されたのか、乾くんはメガネのブリッジを上げながら、いや、しかし……、そう言って一歩後ずさりをする。
もう一度、その乾汁とやらをジッと見つめる。
それは相変わらず怪しく泡立ち、発光している液体……
やっぱりこんなの、英二くんに飲ませるわけにはいかない……!
私のためにあんなに頑張ってくれたのに、さらに命の危険に晒すなんて、絶対にダメ……!
「わかりました、約束ですから私が飲みます」
意を決してそのジョッキに手をかける。
約束は約束、乾くんは私たちを助けてくれた……
必死に走って頑張ってくれた英二くん……
今度は私がその頑張りに報いる番……!
スーッと息を吸って、そのジョッキを持ち上げると、そのまま勢いよく飲み口に口をつけた。
「小宮山さんが飲む必要はないよ」
覚悟を決めてジョッキに口をつけた瞬間、横から突然伸びてきた手により奪われた。
目を見開いて振り返ると、それはいつの間にか理科室に入ってきた不二くんで、彼はニッコリと私に笑いかけると、なんの躊躇もせずゴクゴクとその怪しげな液体を飲み干していく。
「うん、今回は飲みやすいね、結構いけるよ、でも小宮山さんにはオススメしないかな」
カタン、そう実験台の上に空になったジョッキを置きながら、そう不二くんは爽やかに笑う。
結構いけるって、そんなはずないじゃない……!
って、違う、肝心なのはそこじゃなくて……
「あの、どうして不二くんが……?」
「クスッ、学校中大騒ぎだよ、英二が女の子をお姫様抱っこして逃げ回っているって……」
その女の子がいつの間にか骨格標本になったっていうからね、すぐに乾の入れ知恵だって分かったよ、そう言ってクスクス笑う不二くんに、さすが不二くん、やっぱりお見通しなんだなって感心してしまった。