第66章 【トウソウゲキ】
「マジ?頼むよっ!」
「ではこの試作品を……」
「あー、もう分かったってばっ!後で必ず飲むからっ!」
小宮山がまた不安そうに顔をのぞかせる。
そっちに行ったぞ!、すぐそこまで迫ってきたオレを探す叫び声に、心臓がさらなる速さで鼓動を打つ。
あんな怪しげでまずい汁、本当は絶対飲みたくないけれど、背に腹は変えられないもんね!
では約束だぞ、そう一段と怪しげな笑みを浮かべた乾は、どこに隠し持っていたのか理科室の骨格標本を取り出すと、小宮山さん、ちょっと失礼するよ、そう言ってヒョイッとオレの腕の中の小宮山を抱きかかえ、その骨格標本と入れ替えた。
オレの腕の中には学ランを被った骨格標本、目の前には乾に抱えられて戸惑う小宮山……
どう言うことー?、そう文句を言おうとすると、小宮山さんはここへ、そう言って乾は小宮山をすぐ後ろの教室の窓へと押し込んだ。
「いいのか?あの集団が追いついてくるまであと6秒、5秒、4……」
ハッとして慌てて走り出す。
いたぞ!、そう集団の先頭が校舎の角を曲がって現れる。
なにが楽しくて骨格標本なんかお姫様抱っこして走んなきゃなんないんだよっ!
そう心の中で叫びながらも、もうどうにでもなれ!なんて思って、必死に残りの休み時間を走り続ける。
疲れ切ってヘロヘロになったオレを集団の先頭が取り押さえたのは数分後のこと。
「うわっ!女子じゃなくてガイコツじゃん!」
「嘘!?ぜってー女子だったって!」
「英二、どこで入れ替わったんだよ!」
ハァ、ハァと廊下に倒れ込むオレにみんなが訊問したけれど、知らないもんね……、なんて言ってニヤリと笑う。
ったく、これで誤魔化せなかったら恨むかんなっ!そう内心文句を言いながら、小宮山は大丈夫かな……なんて乾の元に残してきた小宮山を心配する。
そん時は必死で……本当に色々必死で……
だから気がつかなかったんだ……
集団の好奇の視線とは別の視線が、オレたちに向けられていたなんて……
本当に全然気がつかなかったんだ____