第66章 【トウソウゲキ】
「英二が女の子抱えて走ってるって!?」
「マジ?あの一年生の鳴海って子?」
だーかーらー、違うっての!、追いかけてくる声に大声で反論しながら、無我夢中で走り抜ける。
学ランに身を隠した小宮山を抱えるオレを興味本位で追いかけてくる奴等、それは大きな集団となってオレたちを今にも飲み込もうとしている。
ダメだ……完全に身体が鈍ってる上に、小宮山とヤったばっかで充電切れ目前……
息は上がって、段々と足の感覚が無くなってくる。
「あ、あの、もういいですから……」
「ダメダメっ!ちゃんと隠れてろって!絶対まいてみせるからっ!」
学ランの隙間からチラリとのぞかせた小宮山の不安そうな顔。
ンな顔されたら、尚更、捕まる訳にいかないっての!!
諦め悪いのが青学テニス部ってね!
いつだって後がないって状況から大逆転してきたんだ!
……まあ、もうオレ、テニス部じゃないけど。
大きく深呼吸して一気に加速度を上げていくと、少しだけ集団との距離ができた。
だけどこのままじゃ、正直、捕まるも時間の問題……
どっかに小宮山だけでも隠せれば……そう悩みながら花壇を飛び越えぐるっと校舎に沿って回り込む。
「いらっしゃいませー、喜んでー」
「うわぁーっ!……って乾!?」
突然、目の前に現れた長身と逆光の怪しげな姿に驚くも、よく見りゃそれはなんてことない乾で、乾は眼鏡をクイッと押し上げると、とうとう見つかったか、そう落ち着いた声で呟いた。
「乾、悪いんだけど、今はオレ、乾に付き合ってる暇ないからっ!」
「俺の予想ではあの集団が追いついてくるまで、あと20秒63というところか……」
「ゲッ!こんなことしてる場合じゃないじゃんっ!」
「ところで英二、ここに一杯の特製乾汁試作品がある……」
「だーかーらー、それどころじゃないっての!」
ったく、人の話聞けよなっ!そう思いながら構わず走り去ろうとした瞬間、この試作品を試してくれれば、なんとかしてやらなくもない、なんて乾が言うから、へ?って慌てて振り返った。