第66章 【トウソウゲキ】
「英二、なんでこんなとこにいんだよ?」
「なんでって……小林たちこそ……」
「俺ら体育の先生に捕まってさ、倉庫に忘れ物したから取ってこいって言われて……」
扉を開けた途端、目の前に立っていたクラスメイトの小林たちは、当然中にオレがいたことに驚いていて、でもそれ以上にこっちは心臓バクバクで……
へー、災難じゃん……、そんな動揺を作り笑顔に隠しながら、必死にこの状況を誤魔化せないか脳みそをフル回転する。
考えたところで、人気ない体育館倉庫に小宮山と2人きりで、しかもマットにはまだ乾いていない水ジミまで付いているこの状況では、「エッチしてました」なんてこと一目瞭然で……
こんなの言い訳なんか出来っこないって……!
「アレ?他に誰かいんの……?」
「って、女子じゃね……?」
小宮山の存在に気がついた小林たちが、もしかして芽衣子ちゃん?、そう言ってオレの後ろを覗き込む。
背中のシャツをギュッと握りしめる小宮山の震える手がビクッと跳ねた。
そうだ、オレまでパニックになってる場合じゃないっての!
なにがなんでも、小宮山を守らなくちゃ……
小宮山を好奇の目に晒させる訳には行かないっての!
「わーっ!わっー!わっー!!!」
大声を上げて小林たちの気を反らせる。
なんだよ?なんて驚いたそいつらに、今度は「あっ!!」って叫んで倉庫の外に向かって指をさす。
小林たちがつられて振り返ったその瞬間、今だ!そう肩にかけていた学ランを小宮山の頭にガバッとかぶせると、急いでお姫様抱っこで倉庫を飛び出した。
「あ、あのっ、英二くんっ!?」
「シッ!いいから黙ってしがみついてなって、舌噛むからっ!」
あー、英二が逃げたぞっ!、そう小林たちの叫び声を聞きながら、必死に小宮山を抱えて走り抜ける。
単純なやつらで良かった、そうだんだん遠くなる声に安心するのもつかの間、騒ぎを聞きつけた生徒たちが集まってきちゃって……
「ちょっと英二!なに、どういうこと!?」
「あの子、誰?噂の子?学ランで顔が見えないっ!」
震える小宮山を抱えながら、必死に生徒たちの合間を縫って走り続けた。