第65章 【トオイヤクソク】
「今日、お母さん、朝一会議でいつもより1時間はやく家を出なくちゃならなくて……」
だから自分で作ってみようかなって……、そう恥ずかしそうに俯いた小宮山の弁当は、なるほど、確かに小宮山が作ったのが一目瞭然で……
「小宮山は全体的に火を通しすぎんだって、なんで玉子焼きもウインナーも真っ黒なのさ……」
「だって、この時期は油断するから食中毒が多いんですよ?しっかり火を通さないと……」
だから通しすぎなの!、そう苦笑いしながら小宮山の弁当に箸を伸ばすと、その玉子焼きっぽいのをヒョイっとつまんで口に放り込む。
……うん、またカルシウム入りなのね。
「……味がないよん?」
「また砂糖と塩、間違いそうだったので、いっそ入れなければ……と」
「ちょっと舐めてみればいいじゃん?」
「……あ!」
もうここまでくると、ある意味才能だよな、なんて思いながらゴクンとそれを飲み込むと、スミマセン……そう小宮山は恥ずかしそうに身体を縮こませる。
「これでも少しずつ練習しているんですけど……全然上達しなくて……」
だから才能だかんね、なんて笑いながら2人の弁当箱を取り替える。
驚いた顔をする小宮山には構わずに、そのままその弁当を食べ始める。
「あの、英二くん、それは私が食べますから……本当に……」
「いいの、いいの、オレ、小宮山の作った弁当、食べたいもん」
ニイッて笑いながら食べ続けると、小宮山は恥ずかしそうに俯いて、ありがとうございます、そう嬉しそうにはにかんだ。
「あの、英二くん……」
弁当を食べおわり片付けを済ませると、小宮山がゆっくりと声をかける。
ん?ってパックのお茶を飲みながら返事をすると、あのですね……、そうなぜか真っ赤な顔で必死に言葉を探していた。
「私、ボタン付けも練習していて……まだ全然上手に付けれないんですけど、でも私なりに頑張っていて……」
モジモジと両手の指先を膝の上で絡ませていた小宮山が、オレの制服の胸のボタンをそっと指先で触れる。
上手に付けれるようになるまで、このままにしていて貰えますか……?、そう恥ずかしそうに視線だけでオレを見上げた。