第65章 【トオイヤクソク】
「英二、今日は昼飯どうすんだよー?」
「今日は乾かタカさんのとこ行ってみるー」
お昼休みになると適当に声をかけてくれるやつらに手を振って、弁当箱片手に体育館裏に向かう。
小宮山は生徒会を理由に市川に声をかけて、もう既に教室を出て行ったから、多分もう来てるはず……
はやく会いたくて自然と駆け足になる。
「小宮山ー♪」
いつも通り誰もいない体育館裏の小さなスペース、目立たない茂みのかげからヒョイッと笑顔の小宮山が顔を出す。
そのままジャンプして飛びつくと、勢いに負けた小宮山がきゃっと小さい悲鳴をあげて倒れこんだ。
押し倒した形でギューッとその身体を抱きしめると、チュッ、チュッ、と頬や唇にキスを降らせる。
「あ、あの、英二くん、お弁当、食べましょう……?」
「やだー、先に小宮山がいいー!」
「だからそう言うの駄目ですってば、食べてからゆっくりしましょう?」
なんとかオレの下から抜け出した小宮山が、そう言ってカバンから弁当箱を取り出すと、お茶やウエットティッシュを準備する。
ちぇー、そう唇を尖らせてみせても、相変わらずの細かい気配りが嬉しい……
んじゃ、デザートは後でたーっぷり堪能させてもらうかんね?、そう耳元で囁くと小宮山は真っ赤になって俯いた。
「ごめんな、最近はずっと市川と食べてたのにさ……」
「気にしないでください、もともと今日は1人で食べようと思っていたので……」
オレのわがままで小宮山の友達づきあいを邪魔したみたいで、申し訳なく思って謝ると、小宮山はそう言って首を横に振る。
なんでさ?、不思議に思って問いかけると、特に理由は……なんて少し目を泳がせて、膝の上に置いた弁当箱をこっそり隠すような仕草をする。
「……小宮山、なんで弁当隠してんの?」
「べ、別に隠してなんかないですよ?」
焦って否定する小宮山の左手の人差し指と中指には、くるっと巻かれた絆創膏……
もしかしてその弁当、自分で作った?、そう言って苦笑いすると、小宮山は真っ赤になって俯いた。