第65章 【トオイヤクソク】
「英二、朝からいちゃついてんじゃねーよ!」
周りの声にハッとして我に返ると、繋がれたままの手をパッと引っ込める。
うるさいなっ!そんなんじゃないって!そう振り返って芽衣子ちゃんに背を向ける。
一学期の最終日、小宮山への当てつけであんな態度をとったから、オレと芽衣子ちゃんのことも噂になっていて……
何度も否定してるんだけど、なかなか噂が消えることはなくて……
「菊丸先輩っ……あのっ!」
昇降口へと向かうオレを呼び止める声……思わずピタッと足を止める。
だーかーらー、なんでオレ、立ち止まってんだよ……
はぁーっと内心ため息をついて頭を抱え込む。
「どったの、芽衣子ちゃん……?」
それは自然と身についている自分を取り繕う笑顔。
振り返って久々に見えた芽衣子ちゃん顔は、相変わらずスゲー可愛いんだけど、その眉はへの字に垂れ下がっていて、ヤバって慌てて視線を戻す。
「菊丸先輩、私……」
「……最後って言ったじゃん?」
それは小宮山に何度も向けた低い声。
背を向けたまま、静かに芽衣子ちゃんの言葉の先を打ち消した。
「……そうですね……すみません」
消えそうな芽衣子ちゃんの声にズキンと罪悪感で胸が痛む。
ごめんな?本当はこんな態度、とりたくないんだけどさ……
期待させるようなこと、もう出来ないからさ……
芽衣子ちゃんの中のオレは、きっとあの店で見せた最低なオレのままがいいんだ……
そんじゃね、芽衣子ちゃん!、ニイッと思いっきり作り笑顔で手を振ると、今にも泣きだしそうなその顔に気がつかないふりをして、一気にその場から走り去った。
「みんな、おっはよーん!」
無理に作った笑顔をばら撒きながら飛び込んだ教室。
振りむいた小宮山の控えめな笑顔が不安なものに変わる。
『大丈夫ですか……?』
すぐに届いたLINEのメッセージ。
なんで小宮山は気付いちゃうのかな……?
何がー?、それより今日、一緒に弁当たべよ?、すぐに抱きしめたい衝動をぐっと堪えて、そう返信文を打ち込んだ。