第65章 【トオイヤクソク】
爽やかな秋の風をきって学校までの道のりを急ぐ。
本当はまだ慌てる時間じゃないけれど、少しでもはやく小宮山の顔が見たくて、自然と駆け足になってしまう。
「英二、おっはよー、早いね、日直?」
「いんや、そんなわけじゃないけどさ!」
挨拶をかわしながら校門に飛び込むと、急に目の前に飛び込んできたセーラー服。
やべ、ぶつかるっ!、慌ててヒョイっとアクロバティックにジャンプして、その子の上を宙返りで飛び越えた。
「ごめん、オレ、余所見しててさ、大丈夫だった?」
ぶつかってはないけれど、それでも驚いてしゃがみこんでしまったその子のところに駆けつける。
大石がここにいたら、急に飛び出したら危ないじゃないか!って怒られてるな、なんて苦笑いしながら、そこでうずくまっている女子に手を伸ばした。
……あ。
その子が顔を上げる一瞬前、そのふわっとした柔らかそうな髪に身体を固まらせる。
ピクッと反応したその女子の両肩に、伸ばした手の行き場を迷わせる……
芽衣子ちゃんじゃん……
それはある意味、一番会いたくない相手……
恐る恐る顔を上げた芽衣子ちゃんと視線がぶつかると、おはようございます……、そう消えそうな声で挨拶された。
「あぁ、お、おはよう……」
「……手、借りてもいいですか?」
「へ?、あ、うん、ほんと、ごめん……」
ゆっくりと伸ばされた手がオレの手のひらに重ねられると、グイッと引っ張り立ち上がるのを手助けする。
怪我、してない……?、俯いたままで、うかがい見ることはできない表情に問いかけると、芽衣子ちゃんは、はい……とだけ返事をした。
やべー……やっぱ気まずいよなぁ……
芽衣子ちゃんとはあの日、あの店で一度だけ関係を持って以来、顔を合わすのは初めてで……
学校が始まってからは、正直、関わらないようにしていたから、遠くにチラッと見かけたりすることはあったけど、こんな風に近くで会うことなんかなくて……
どうしたら良いかわからずに、重い沈黙が訪れる。
2人の間に気まずい空気が流れた。