第64章 【ネガイゴト】
「英二、いいって言ってた?」
携帯を不二くんに返すと、そう言いながら不二くんがいつもの笑顔でそれを受け取る。
はい、よろしくお願いします、なんて頭を下げながら、本当は嫌なくせに、英二くんが私のことを大切だって言ってくれて、心配だからって言ってくれることが嬉しくて、思わずにやけそうになり、慌てて俯いてそれを隠す。
「小宮山さん、幸せそうだね」
え?、慌てて顔を上げてしまい、まだにやけたままの頬を両手で隠す。
不二くんの前で英二くんと電話してて、思いっきりしまらない顔を見られてたのかな?なんて思うと恥ずかしくて、あ、う、そう言葉を詰まらせてしまう。
「あぁ、英二のことはもちろんだけど、最近、学校で楽しそうだから……」
クラスでも生徒会でも、笑顔をよく見るようになったよ?、そう私の顔を嬉しそうに微笑んで見ている不二くんに、あ、そうか……ってハッとして、当然のことのように英二くんのことを言われたと思った自分にますます顔が赤くなる。
恥ずかしさを誤魔化すために、はい、凄く幸せです!、なんて必要以上に大声になっちゃって、余計に不二くんにクスクス笑われた。
「でも不二くんは凄いですよね……」
校門を抜けて自宅まで向かう途中、ポツリと呟いた私に、不二くんが不思議そうに首をかしげる。
だって、全然顔色変えないじゃないですか……、なんて苦笑いで続ける私に、ああ、噂のこと?、そうすぐに納得した様子で微笑む。
「今日、お弁当を食べながら色々聞かれていたね」
「それに生徒会中もですよ……今までこんなことなかったのに……」
どうしたら良いかわからなくて……、そうため息をつく私に、適当でいいのに、なんて不二くんは笑う。
そりゃ、不二くんはいつもの笑顔ではぐらかしているけど……
お昼にお弁当を食べていた時だけでなく、生徒会中も不二くんと仕事の話をする私にみんなの視線が集中した。
やり辛くて離れると、すかさず集まってくる人たちに、あれこれ聞かれて固まってしまった。