第64章 【ネガイゴト】
「あ、あの……今は仕事中ですので……」
「やりながら教えてよ?どっちから告ったの?」
「いえ……その……」
困り果てている私にしびれを切らしたのか、その子たちは同じ質問を堂々と不二くんにもしたんだけど、何を聞かれても彼は「へぇ……」って微笑むだけで……
全然質問の答えになっていないんだけど、もうみんなその麗しい微笑みにポーッとして何も言えなくなっていて……
「私が適当にやったら、また『それが何か?』とか言っちゃいますよ……」
「クスッ、僕はそんな小宮山さんも素敵だと思うけど?」
でも、やっぱり笑顔もいいかな、なんてこっちが恥ずかしくなるセリフをサラッと言う不二くんに、だからそんな冗談多すぎですから、そう苦笑いする。
ふと目にとまる赤い鳥居。
そこは一学期の最終日に不二くんとインターハイの必勝祈願をしたところ……
少し悩んでチラッと不二くんに視線を向けると、彼も同じよう鳥居から私に視線を移した。
「ちょっとだけ寄り道していこうか?」
「はい、私も同じこと思ってました」
同じことを考えていたことが可笑しくて、お互いの顔を見ながらクスクス笑う。
あの日と同じように作法通りに社まで進むと、同じように五円玉を胸の前で握りしめて、同じように手を叩いて礼をする。
不二くんが怪我せず実力を発揮できて、本当にありがとうございました。
それから英二くんのことも……私と一緒の時は心からの笑顔だから……きっと自惚れじゃなくて……
あの日、英二くんと鳴海さんのことで凄く悲しくて、心が折れそうになった時、ここで不二くんと英二くんのことをお願いした。
神様はそんな私の願いを両方叶えてくれたから……
神様、お願いします、今度はずっと私たちの支えになってくれている、不二くんが幸せになれますように……
それから、私のことで申し訳ないのですが、これからもずっと英二くんの側にいられますように……
神社を後にすると、また不二くんがお願い事を聞いてくるから、恥ずかしく思いながらも正直に話す。
それは神様も困るだろうね……、そう何故か彼は少し困ったように笑った。