第64章 【ネガイゴト】
制服を脱いでクローゼットにしまうと、チラッとラケットバッグに視線を向ける。
そっと腕を伸ばして触れようとすると途端にドクンと大きく脈打つ心臓。
慌てて扉を閉めて額をそこに押し付ける。
どうせ一生できないんだから、いつまでもこんなとこに置いておいても無駄なのにさ……
諦めきれない過去、忘れられないラケットの感触、往生際の悪い自分にあざ笑う。
「だからしかたがないじゃん?無理なもんは無理なんだからさっ!」
考えんのなんかやーめ、やーめ、そうわざと明るく言って笑顔を作る。
大五郎を抱きしめてベッドに横になると、買ってきたばかりのアイドル雑誌を見て気持ちを切り替える。
あ、このスニーカーいいなぁ……
ペラッとめくって飛び込んできたスニーカーの広告ページ、中学のころはレアもののスニーカーを買うために、コツコツ小遣い貯めたりしてた。
まあ、こうやってちょいちょい雑誌やお菓子を買っちゃったり、部活の後に桃やおチビにハンバーガーを奢らされたりして、なかなか貯まんなかったけど……
って、結局、全然、気分転換になってねー……
こうやって時間を持て余していると、思い返すのは結局テニスに関係することばっかで、そんな自分が情けなくて大きなため息を落とす。
チッって舌打ちして雑誌をベッドの横にバサリと落とすと、代わりに携帯を取り出しゲームで時間を潰す。
だけどそれもすぐに飽きて、さっさとログアウトした。
はぁ……、やっぱ、暇ー……
小宮山、今頃頑張ってんだろうな、仰向けになって天井を見つめると、浮かんでくるのは小宮山の柔らかい笑顔。
終礼と同時にいそいそと荷物をまとめ出した小宮山が、チラッとオレに視線を向けて何か言いたそうにしてるから、また今夜も電話すんね、そうLINEに打ち込んで送信した。
すぐに確認して嬉しそうに微笑む小宮山がすげー可愛いくて……
カバンを手にペコリと頭を下げて、生徒会室へと向かうその背中を、少しさみしい気持ちで見送った。