第64章 【ネガイゴト】
「じーちゃん、ばーちゃん、ただいまー」
学校から帰宅するとじーちゃんたちにそう挨拶して自分の部屋に向かう。
階段を登りかけたところで、ああ、英二、ちょうど良いところに!、そう上から降りてきた下のねーちゃんに声を掛けられる。
「あ、ねーちゃん、いたんだ?、ただいまーって、出かけんの?」
これから大学ってことはないだろうから……デート?って相手いないか、そうニャーっと笑って言うと、うるさいわねっ!自分は彼女出来たからって!そうねーちゃんの鉄拳が飛んでくる。
「わー、階段ではまずいって、ゴメン、オレが悪かったよっ!」
「だーかーらー、ゴメンで済んだら警察いらないってばっ!」
階段で殴りかかってきたねーちゃんは、自分から仕掛けてきたくせに、うぎゃ!、と可愛げのない悲鳴をあげて足を滑らせる。
ったく、しゃーねーな、そう思いながら、よっとその身体を受け止めると、勢いよく飛び込んできたねーちゃんの胸がむにゅっと当たった。
あ、そう思ったら真っ赤な顔をしてナワナワと震えるねーちゃんと目があって、このスケベ!そう思い切り殴られる。
「ひでー!助けてやったのに、それが命の恩人に対する態度ー?」
「誰が命の恩人よ!このエロ英二!!」
ったく、誰もねーちゃんの胸なんて興味ないっての!
性に目覚めたばっかの頃ならいざ知らず……
また殴られた頭をさすりながら、なんだよ、助けなければ良かった!そう頬を膨らませると、で、ちょうど良かったってなんなのさ?なんて問いかける。
すると真っ赤な顔をしていたねーちゃんは、あ、そうだった!と慌てて階段を駆け下りた。
「あんた、今夜の夕飯、作っといて!お母さん、残業で遅くなるって!」
「えー、なんでだよっ!ねーちゃんが頼まれたんじゃん?」
「バイトなの!突然変わってほしいって連絡きて!」
私の分もちゃんと作っといてよ!そうねーちゃんは叫びながら、慌てて玄関で靴を履いて飛び出して行く。
ちぇー、まあ、どうせ暇だし別にいいけどさ、そう頬を膨らませながら自室へと向かった。