第64章 【ネガイゴト】
不二くん、痛いところ付いてくるな……
確かにそうなんだけど、だけど思い浮かぶのは、私が不二くんといることに不安を感じて震える英二くんの姿……
でも、やっぱり……、そう俯いて、首を横に振る。
「夏休みに英二くんを探しに行った時は夜中でしたし……」
「あの時は緊急事態だったし、今とは状況が違うよね?」
「毎日通る道ですから、慣れてますし大丈夫ですよ……」
「毎日通るからこそ、誰がねらっているか分からないよ?」
さすが不二くん、私が考えつく言い訳なんて全く通じる様子もなく、あっさり正論で言いくるめられてしまう。
もう断る理由が思いつかず、また俯いて黙り込むしかなくて……
「本当に小宮山さんは頑固だな……」
数秒の沈黙の後、ふーっと大きなため息をついて首を振る不二くんのその様子は、いつもよりずっと圧迫感が感じられて、何度も断る申し訳なさと合わさって胸がドキドキする。
縮こまる私をもう一度チラッと見た不二くんは、胸のポケットから携帯を取り出して、それからどこかに電話をかけ始めた。
「もしもし、英二?、うん、僕だけど……」
英二くん?、その名前に驚いて顔を上げる。
英二に許可を取れば、問題ないよね?、そう言って不二くんは私の顔を真っ直ぐに見つめた。