第64章 【ネガイゴト】
「ごめんね、思ったより時間、掛かっちゃって……」
「いいえ、気にしないで下さい、生徒会執行部が忙しいのは最初から分かってたことですから」
放課後、頼まれた書類整理は思いのほか手間取って、他のみんなと必死に頑張るも、結局終わったのはもう夕方の6時を回っていた。
窓から差し込む夕日が生徒会室をオレンジ色に染める中、お疲れさま、それじゃまた、そうみんなが口々に帰って行く。
「じゃ、僕たちも帰ろうか、こんな時間だし送っていくよ」
一番最後に生徒会室を出て鍵を掛けた不二くんが、そう私の方を振り返って笑うから、えっと……、なんて戸惑って言葉を詰まらせる。
「大丈夫ですよ、まだ明るいですし、一人で帰れますから」
だって、不二くんと2人で帰ったら、英二くんがいい気しないよね……?
一緒に下校するってことは、学校で普通にしてるってこととは違うもの……
そんな私の戸惑いを不二くんはちゃんと見抜いているようで、駄目だよ、そういつもより少し低い声で怖い顔をする。
「いくらまだ明るいからってもうこんな時間だからね、女の子を1人で帰らせるわけにはいかないよ」
「そんな……不二くん、心配しすぎです」
私なんか、誰も襲ったりしませんよ、そう慌てて手を振りながら、出来るだけ心配かけないように笑顔を向ける。
気にかけてくれるのは嬉しいけれど、やっぱり不二くんと2人で帰る訳にいかないもの……
「……一度襲われたことがある癖に、それ、本気で言ってるの?」
凍り付くような不二くんの鋭い眼差し、ゾクリと背中に冷たい空気が走る。
思わずギュッと通学鞄を持つ手に力を込めた。