第64章 【ネガイゴト】
「あー、美沙、不二くんに怒られるよー」
「な、なんで、そうなるのよっ!」
「璃音の胸揉んだからー」
「揉んでないって、掴んだだけじゃん!」
そんなとんでもないみんなの会話がますます恥ずかしくて、あ、あの、もうやめてください、そう懇願する。
不二くん、別に怒りませんから……、なんてオロオロしている美沙に向かって言うと、だよねー、私、璃音いじめてないもん、そう得意げな顔で女の子たちに言い返す。
あの時の不二くんの一言は余程あとを引いているようで、きっとあれがなければ、今でも嫌がらせは続いていたに違いなくて、本当、すごい効果だなって感心してしまう。
「ねぇねぇ、そう言えば不二くんって2人の時はどんな感じ?」
急に向けられた興味津々の視線に、どきりと心臓が跳ねる。
ちょっとあんたら、そう美沙がそれを咎めるも、だって気になるじゃーん、と2人がまた目を輝かせる。
2人の時と言われても、普段と全然変わらないし、そもそもこれって、彼氏としての不二くんの話を聞きたいのだろうから、私なんかが答えられることじゃないし……
「やっぱりいつもあんな風に穏やかなの?」
「あったりまえじゃん、あの不二くんだよ?完璧な彼氏に決まってんじゃん!」
「はぁー、いいよねー、不二くんが彼氏なんてさー」
今までは遠目に噂されるだけだったから全然気にしないでいられたけれど、こんな風に人と接するようになったら、恋バナ好きの女の子たちが聞きたがるのは当然のことで……
しかも相手は学園の王子様の不二くんなんだから、女の子たちが食いついてくるのは尚更で……
こんなとき、なんて切り返したらいいんだろう……?、そう戸惑って悩んでいると、あっ!、なんて美沙の驚く声が聞こえて顔を上げる。
みんなの視線が私の後ろに集中しているのに気がついて、どうしたんだろう……?なんて思って振り向くと、やぁ、みんなで僕の噂?、そうにこやかに微笑む不二くんが立っていた。