第64章 【ネガイゴト】
「ね、うちらも璃音でいいー?」
「は、はい、もちろんです!」
「良かったー、こっちも名前でいいからねー」
ああ、この雰囲気、懐かしい……
机を寄せ合いお弁当を広げながら、楽しそうに笑う女の子たちと同じ空間を共有すると、中学の頃を思いだして、まだほんの少しだけ胸が痛む。
璃音、どうしたの?、そう美沙の様子を伺う声に顔を上げると、みんなが心配そうに私をのぞき込んでいるから、何でもありません、そう慌てて笑顔をむけた。
「なんていうかさ……、璃音って笑うとアレだよね……」
「うんうん、なんていうか、アレだわ……」
アレって……?、そう顔を見合わせている女の子たちに首をかしげると、ズルイ!そう2人は声を揃えて私の鼻先を指でさす。
ず、ずるいって……?、そんな風に言われたこと無いんだけど……?
「璃音って、最初はただのガリ勉でオシャレなんて気を遣わないタイプかと思ったらさ……」
「そうそう、実は超キレイなクールビューティー……と見せかけといて、真の実態は笑顔が可愛いプリティーガール!」
そんな風に言われると、どう反応して良いか分からなくなる。
ありがとうございます?、そんなことないですよ?、みなさんだって可愛いですよ?
どれが正解かわからずに、そもそも正解なんかないような気がして固まってしまう。
「ちょっとあんたら、璃音、困ってんじゃん、そのくらいにしときなよー」
既に大きなお弁当をペロリとたいらげた美沙が、そう助け船を出してくれる。
良かった、ホッと胸をなでおろすと、まぁ確かに、細いくせにこの胸はズルいと思うけど、なんて言って突然横から胸を鷲掴みにされたから、思わず「ひゃん!」と変な声を上げてしまう。
思いの外大きかったその声に、教室内が静まり返る。
やっちゃった、そう恐る恐る周りに目を向けると、周りの男子はニヤニヤしてて、目があった英二くんは苦笑いしていた。
すごく恥ずかしくて慌てて俯くとポケットからバイブが響く。
小宮山ってばサービスしすぎ!って、別にしてないもん、そっと視線をむけて頬を膨らませた。