第63章 【ジンセイノカテ】
『へぇ、市川とあの店いったんだ〜』
「はい、英二くんも知ってるんですね、行ったことあるんですか?」
『いんや、桃とおチビから話に聞いただけ』
「あ、お店のご主人、市川さんのこと、女桃城って言ってました!」
もはや毎日の日課になっている、寝る前の英二くんとの電話。
普段は英二くんがしてくれる楽しい話に相槌をうっていることが多いけど、今夜は私が率先して市川さんとのことを報告する。
夕飯の時、お母さんに話した時もそうだったけど、英二くんもお母さんも凄く嬉しそうに私の話を聞いてくれる。
お母さんなんて、良かったわねって何度も言いながら目を潤ませていて、ずっと心配を掛けていたことを改めて申し訳なく思った。
ありがとう、もう大丈夫だよ、今すごく幸せだからって笑ったら、お母さんも涙目で笑ってくれた。
『女桃城って!、でも確かに市川の食欲は桃に匹敵するかもねー』
「そうなんですか?、自分ではよく分かってないようでしたよ?」
『なんでだよ~、あいつ中学んとき、学園祭の大食い大会で、女性部門のチャンピオンになってたじゃんか!』
大食いチャンピオン!?、そう驚いて声を上げるも、今日の食べっぷりを思えば、その時の様子が安易に想像できてしまい、携帯の向こうで大笑いしている英二くんに負けないくらい私も笑った。
「それでですね、そのあと英二くんにチビ丸を買ってもらったあのお店に行って、それからLINEの交換もしたんです!」
『おー、友だち、増えたじゃん!』
「はい!それで早速市川さんがスタンプ送ってくれたんですけど、なんとそれがラーメンのやつで、また可笑しくて!」
本当に幸せ……
こうして英二くんとも普通に恋愛できて、ずっと仲良くなりたかった市川さんにも友達って言って貰えて……
ひとしきり笑い続けて、はーっと満たされたため息が溢れる。
『小宮山、ほんと嬉しそう……、今日、すげー、笑ってる……』
ふと携帯の向こうから聞こえた英二くんのちょっと落ち着いた声。
はい、幸せです……、そう頷いてまた幸せを噛みしめた。