第63章 【ジンセイノカテ】
決して無駄じゃなかった……
ずっと消えてなくなればいいと思っていた中学の頃の経験……
『璃音はうまく話せない分、尚更笑顔は大切だよ!ほら、笑顔の練習しよう?』
あの時、ナオちゃんは一体何を思ってそう言ってくれたかわからないけれど……
もしかしたら、その後、私を陥れた時により落差をつけて楽しむためだったかもしれないけれど……
でも家族の前以外で一切笑えなかった私が、人前で笑えるようになったのは、あの頃、そう言ってくれたナオちゃんのおかげ……
だからって、間違っても感謝する気にはならないけれど……
今でも、思い出すだけで胸が苦しく破裂しそうになるけれど……
だけど……また少し、前に進めたような気がした。
『小宮山、ほんと、今日はいーっぱい喋ったねん』
「あ、すみません、なんか私ばっかり……」
『いいの、いいの、小宮山が楽しそうでオレも嬉しかったからさ』
おやすみなさい、そう言い合って通話を終了する。
通話終了の文字を眺める、1日の最後のとても幸せな、少し寂しい時間。
携帯に充電器をさすと、ふと目が止まった本棚の卒業アルバム。
少しためらってそれに手を伸ばす。
ゆっくりめくって探し出す自分の写真。
英二くんがあの日、貼ってくれた私の笑顔……
嫌悪感しかなかったこのアルバムに暖かい彩りを添えてくれた……
ナオちゃんと他の女の子たちと、それから香月くん……
楽しくて幸せだったから、なおさら辛くて苦しくて、もうあんな思い二度としたくなくて、人と接することを拒み続けた……
だけど英二くんと出会って、不二くんやテニス部の人たちと知り合って、それから市川さんとも友達になれて……
こうやって、人生は大切なものを手に入れて、無くしてもまた手に入れて、少しずつ増やしていく……
立ち止まっちゃダメなんだ……
目を背けちゃダメなんだ……
無駄な経験なんて何一つない……
全てがその後の人生の糧となる____