第63章 【ジンセイノカテ】
「御馳走様でしたー、ふー、満腹満腹!」
「うるせぇっ!もう二度と来んな、この女桃城っ!」
おじさんの泣き声に見送られながらお店を後にする。
満足げな笑顔でお腹をさする市川さんに、女桃城って、桃城くんのことですか……?、なんてクスクス笑いながら話しかけると、小宮山さんが笑ってくれたー!、そう市川さんが嬉しそうに笑う。
あ、そう言えば何もかもが可笑しすぎて自然に笑えたかも……
恥ずかしくて一瞬顔が固まるも、私の笑顔に嬉しそうにしてくれる市川さんの様子が嬉しくて、また自然と頬が緩む。
注文したラーメンがカウンターに置かれたとき、その激盛りのあまりの量に言葉を失った。
大きなどんぶりから溢れんばかりの麺は、山盛りなんて言えないくらいの迫力で、中のスープなんていっさい見えないほど……
隣に置かれた私の普通のラーメンがまるで子供用のお茶碗に盛られているかのようで……
これ、本当に10分で食べきれる人なんているの……?
いやいや、時間制限なくても食べきれないでしょ……?
そう思って呆気にとられている間に、次から次とその激盛りラーメンは市川さんのお腹の中に消えて行った。
そのスレンダーな身体のいったいどこに入っていくのか不思議なほどに……
「しかし、やっぱり味はイマイチよねー」
「ふふ、でも市川さんって凄く食べるんですね?私、びっくりしました」
「そうかなー?、小宮山さんが少食なんじゃないの?」
「私は普通だと思うんですけど……?」
うーん、やっぱり私が大食いなのかなー?、そう腕をくんで首を傾げる市川さんに、そうですよ、なんて言ってクスクス笑うと、やっぱそうか、そう市川さんは苦笑いする。
あ、もしかして市川さん、私の緊張をほぐしてくれようとして、あのお店に連れて行ってくれたのかな……?
そう思ってお礼を言うと、それは小宮山さんの考えすぎ、なんて言って市川さんはまた笑った。