第63章 【ジンセイノカテ】
「言っとくけど、ここ、本当に味は大したこと無いからね?」
席に座ると何もなかったかのように市川さんがそう声にする。
そんな優しさに感謝しながらも、そ、そんな、はっきり……、そうおじさんの方を気にしながらオロオロしてしまう。
まあ、お世辞にも混んでるとは言えないけれど……
と言うより、私たち以外、お客さん誰もいないけれど……
「うるせぇ、文句があんなら来るなっ!つうか、てめえは出入り禁止だって言ってんだろっ!」
「ちょっとぉー、それが客に対する態度ですかー?」
そんな市川さんとおじさんのやりとりをハラハラしながら眺めていると、いいから、激盛り、2つ、速くね!、なんて市川さんが指を2本立てて言う。
「……激盛り……2つ?」
「うん、小宮山さんも食べるでしょ?激盛りラーメン、10分で食べきったら全部ただ!」
失敗したら5千円だけどー、そうケラケラと楽しそうに笑う市川さんのその様子に、私は普通ので、そう苦笑いしながら首を横に振る。
遠慮なんかしなくていいのに、なんて市川さんが笑うから、いえ、遠慮ではなくて……、そう更に大きく横に振った。
「だからてめぇは激盛り禁止!大盛りも特盛りも禁止!どうしても食いたけりゃ普通のラーメンを注文しろっ!」
「えー、そんなんじゃ全然足んないし、お金払いたくないもん!」
それに小宮山さん、見たくない?激盛り!、そうニヤリと笑って市川さんが私に同意を求めてくるから、確かにチャレンジメニューなんて見たことないな……なんて思って、はい、見たいです、そう返事をする。
「ほらほら、激盛りと普通のラーメン!小宮山さんが常連になれば、美少女が食べにくる店って評判になるかもよー?」
そんな市川さんの言葉に、ハッとした顔をしたおじさんは、確かにそうだな、なんて鼻歌を歌いながら厨房で中華鍋を振り出した。