第63章 【ジンセイノカテ】
出入り禁止って、市川さん、いったい何をしたの……!?
突然店内から響いたその怒鳴り声に、驚きと不安でオロオロする私とは対象的に、そんなこと言っていいのー?、そう楽しそうに市川さんはニヤニヤとした笑顔を見せる。
「せーっかく美少女の友達、連れてきてあげたんだけどなー?」
美少女ってもしかして私のこと……?
ガタガタと店内から響いてくる音に、なに?そう思わずカバンを握る手に力がこもる。
何度か躓きながら店内から飛び出してきたおじさんは、私の顔をマジマジと見つめると、慌てて店内に引き返し、へい、らっしゃいっ!、そうすごい勢いでカウンターを拭きはじめる。
なんかちょっと怪しげなおじさんだなって苦笑いしながら、あれ?、そう先ほどの市川さんのセリフを思い出す。
市川さん、今、私のこと友達って言ってくれた……?
「あ、あの……、今、友達って……?」
「あれ?友達でしょ?」
戸惑いながら声を振り絞った私に、市川さんは不思議そうに首を傾げ、当たり前のことのように繰り返す。
市川さん、こんな私のこと、友達だって思ってくれてるんだ……
嬉しくてじんわりと涙が滲む。
私のその涙に驚いた市川さんが、もしかして、嫌だった?、そう焦った様子で聞いてくる。
慌てて涙を拭いゆっくりと首を横に振る。
「嬉しいんです……、ずっと市川さんと友達になりたかったから……」
また涙が溢れて止まらない私に、市川さんが優しく笑う。
ほら、小宮山さん、早く早く、そう何でもないことのように背中に回り込むと、後ろから両肩を押してくれる。
はい……、促されながらカウンターの席に座ると、ここ、味はともかく、いつも空いてていいんだよねー、なんて今度はケラケラと笑った。
次々と変わる笑顔は、どれも凄く優しくて暖かくて……
当然のように私を受け入れてくれる……
市川さん、本当にありがとう……
次々と溢れてくる涙を今度はハンカチでしっかりと拭った。