第63章 【ジンセイノカテ】
んじゃ、帰ろうかー、そう言ってピョンッと机から飛び降りた市川さんに、慌てて着いて来たところは青春台の商店街。
始業式で短縮午前授業のお昼時、場所と時間帯ゆえ、青学の生徒達がよく目立つ。
友達同士、楽しそうに談笑しながら行き交う学生服とセーラー服……
そんな中、市川さんと2人並んでいると、何も話さずただ黙々と歩くこの状況に焦りが生まれる。
ど、どうしよう……何か話さないと……
せっかく誘ってくれたのに、市川さんから話しかけてくれないと、何を話したらよいか分からなくて……
何か……何か……何を……?
「市川さん、今日は良い天気ですねっ……!」
「え……?あ、うん、まぁ、そうだね……?」
やっちゃった……こんなお昼過ぎに、今更良い天気も何もないよね……
さんざん悩んで口から飛び出した言葉はとても間抜けな言葉で、本当に私ってなんなの、そうため息があふれる。
市川さん、呆れたかな……?、恥ずかしさと不安から立ち止まってしまった私に、少し考えた様子の市川さんは、とりあえずなんか食べる?、そう笑顔を向けてくれた。
「小宮山さん、ラーメン好き?」
商店街のはずれまでくると、そう市川さんがお腹をさすりながら聞いてくる。
あ、はい、それなりに……、そう慌てて頷くと、良かったー、腹ペコの時にはもってこいの店があるんだよねー、なんて嬉しそうに笑う。
ラーメンって、ナオちゃん達とも行ったことないな……
そもそもこんな場面で女子高生が食べに行くところと言ったら、スイーツやファストフード辺りが定番な気もするんだけど……
でもこういうのも市川さんの魅力かもしれない、そんな風に思いながら案内されたのは、表通りから少し裏に入ったところにあるさびれた……もとい、老舗のラーメン屋さん。
「おじさーん、また来たよー!」
そう市川さんが暖簾をめくり、ガラッと勢いよく引き戸を引いて中を覗く。
おまえ、また来たのか!出入り禁止だって言ったろ!、そう中から男の人の怒鳴り声が聞こえ、驚きのあまりビクッと身体を跳ねさせた。