第63章 【ジンセイノカテ】
「貸してって……?」
「うん、折角だから、小宮山さんとゆっくり話してみたくて」
戸惑う私に市川さんは、どうかな?、そう問いかける。
その突然の市川さんの誘いは、私にとってとうぜん嬉しい申し出で、だけど、やっぱりすぐに言葉が出て来なくて、ギュッと胸の前で拳を握りしめる。
小宮山さん、都合悪いかな?、そう問いかける市川さんに慌てて首を横に振ると、えっと、どっち?、そう市川さんが笑うから、ヨ、ヨロコンデ・・・、なんて片言の日本語になってしまい、恥ずかしくて慌てて俯いた。
「小宮山璃音です、よろしくお願いします」
生徒会執行部の顔合わせ、机を四角く組み合わせた会議室で簡単な自己紹介を済ませる。
自己紹介といっても、生徒会執行部に入っている人の顔と名前はみんな覚えているし、私と同じように今期からの人も他の委員で一緒になったことがあるから、全くの初見の人なんていないけど……
市川さん、どうしてそんな風に言ってくれたんだろう……?
本当なら集中しなくちゃダメなのに、緊張してなかなか集中できない。
早く、早く……、つい時計を気にしてそわそわしてしまう。
「お疲れさまでした、お先に失礼します」
顔合わせと片付けが終わると慌てて皆さんに頭を下げて、それから急いで教室へと戻る。
小宮山さん!、そう不二くんが生徒会室から顔を出し、楽しんできて、なんて笑顔で送り出してくれる。
はい、そう返事をしてから、スーッと大きく息を吸い込む。
楽しめるだろうか……?
そもそも、ちゃんと話が出来る自信なんて全くない。
こんなんじゃ市川さんを退屈させるだけじゃないかな……?
不安でドキドキする胸を抑えながら早足に教室へと向かう。
市川さん、待っててくれるかな……?
大丈夫だよね、待っててくれるよね……?
恐る恐る覗き込んだ誰もいない教室、窓際3番目、イスではなく机の上に大胆に座り外を眺めているその後ろ姿にドキンとする。
あ、あの……、なんとか声を振り絞ると、あ、終わった?、そう市川さんは笑顔で振り返った。