第62章 【シンガッキノケツイ】
ガタッとイスを鳴らして立ち上がった市川に、美沙……?、そう不思議そうな視線が集まる。
そんな視線を浴びながら、教室内をぐるっと見回して市川が大きくため息をつく。
「いつもいつも、小宮山さんに押し付けるの、やっぱ良くないよ」
大きく目を見開く小宮山、その顔を真っ直ぐ見つめる市川……
教室内の時間が、その瞬間、止まった感覚に包まれた。
「小宮山さんも悪いんだよ?、なんでもっと強く拒否しないの?」
自分が我慢してすればいいやって諦めてるの?、力強い口調、それは確かに小宮山を責めるものだけど、決して冷たいものではない・・・
不二とのことで小宮山がいじめにあった時、真っ先に庇って大声をあげたあの時と同じ、小宮山を心から気遣う説教・・・
あ、あの……、なんとか小宮山が声を振り絞ると、みんな我に返り、一気に教室内がざわめきだす。
みんな黙って、また市川がそのざわめきを打ち消した。
頑張れ、小宮山……頑張れ!、何度も心の中で繰り返すと、不安そうな小宮山と視線がぶつかった。
小宮山が俯いて、すーっと大きく息を吸い込む。
それからゆっくりと顔を上げて、市川さん、ありがとうございます、そうしっかりと市川の顔を見て言う。
「申し訳有りません、やはり生徒会執行部とクラス委員の掛け持ちは荷が重すぎます。私は執行部で精一杯頑張りますので、クラス委員はどなたか別の方にお願いします」
きっぱりと言い切った小宮山の口調は、相変わらず丁寧なものだけど、それは決して上から目線のものではなく……
しっかりと前を向いてクラス全体を見回した表情も、普段学校で見せるツンツンの虚勢を張ったものとは違う、本来の小宮山の表情……
「市川さん、本当にありがとうございます、それから、今までごめんなさい……」
精一杯の小宮山の謝罪とお礼、市川が満面の笑みでそれに応える。
教室、一番後ろからこっそり送ったブイサイン、小宮山だけが確認して嬉しそうに笑う。
その瞬間、教室内にどよめきが起こり、小宮山は真っ赤になって俯いた。