第62章 【シンガッキノケツイ】
もし市川さんの近くだったら、謝るきっかけもあるかも知れない……
英二くんとは……恥ずかしいから出来るだけ遠くがいいな……
「小宮山さん、隣、よろしく~♪」
教室内のざわめきが落ち着くまで本を読んで待っていた私の耳に、信じられない声が聞こえた。
ハッとして顔を上げると、そこにはニッと笑顔で24番の紙を見せる英二くん。
慌てて黒板に視線を向けて、確かに隣で合っていることを確認する。
「あ、う、え……」
カーッと熱くなる頬、ドキドキと高鳴る心臓、パクパクと音にならない声……
駄目、周りから変に思われる!
カバンから急いでメガネを取り出すと、慌ててそれをかけて顔を隠す。
はい、何とか声を振り絞ると、英二くんがまたニッと笑った。
英二くん、本当になんで……?
やっぱり信じられなくて、チラッと英二くんに視線を向けると、もう周りの人と楽しそうに話していて……
そんな笑顔の彼とまた一瞬目があって、また慌てて本に視線を戻す。
だ、駄目だ……心臓が持ちそうにないよ……
そう何度も深呼吸しながら、この状況をゆっくりと頭の中で整理していく。
ブブッとポケットで短くなった携帯のバイブレーション。
『小宮山、緊張しすぎー!顔、真っ赤だよん?』
そ、そんなこと言ったって仕方がないじゃない!
『偶然ですか?』コッソリ送信すると、すぐにまたバイブがなって、『愛の力!』なんてキラキラの絵文字と一緒に送られてきたブイサイン。
赤い顔で机の下の携帯を見る私と、隣で堂々と操作して余裕の笑みを浮かべる英二くん……
ざわめく教室の後方でそんなやりとりが繰り広げられているなんて、きっと誰も思わない。
私、授業、ちゃんと集中して受けれるのかな……?
ハッ、お腹、鳴ったらどうしよう……!
そう言えば春に英二くんと同じクラスになった時も、こんな風に思ったっけ……
ただひたすら英二くんを眺めることに精一杯だった数ヶ月前を思い出す。
また一つ、大きく深呼吸して必死に気持ちを落ち着けた。