第62章 【シンガッキノケツイ】
はぁ……やっぱり何も言えなかった……
おはようございます、ごめんなさい、ありがとう……
喉元まで出てきた言葉は結局声にならなくて、溢れるのはそんな自己嫌悪のため息ばかり……
あんなに決意してきたのに、全然、成長出来てないよ……なんて落ち込みながらも、ほら席につけー、そう先生が教室に入ってくれば自然と気持ちは切り替わる。
「おまえら、怠いだろー?、先生も怠いから安心しろー」
なんだよそれ?、教師のくせにダメだろ、そんな誰かの突っ込みと同時に沸き起こる笑い声を聞きながら、教室のテレビモニターに映る校長先生の話を眺める。
マンモス校ならではのテレビモニターでの始業式。
不二くんのインハイ優勝の表彰では、クラスのあちこちから女の子達のため息が溢れていて、きっと学園中がそうなんだろうな、なんて思いながら拍手を送った。
「んじゃ、色々やることあるけど、とりあえず席替えすっかー」
始業式が終わると、例によって例のごとくクジでいいなー、と先生が教卓の上に大きな箱を置く。
あ、そうか、新学期だもんね、なんて思いながら、小林くんから離れられることにホッと胸をなで下ろす。
まあ、不二くんに釘を刺されてからは、すっかり大人しくなって、前みたいにからかわれなくなったけど……
私には分からないけれど、本当に不二くんって怖い一面もあるのかも?なんて思いながら、時折見せる英二くんの怯えた顔を思い出してこっそり笑う。
「それじゃ、そうだな……小宮山からどんどん引いて移動しろー」
私の席は廊下側の一番前、先生の指名に立ち上がりくじを引く。
18番……教室中央、一番後ろか……
続々とみんなが移動を始める中、荷物をまとめて私も机を移動していく。
これからは煩わしい呼び出しから解放されるから良かった、そう少しホッとしながら、英二くんと市川さんはどこかな……?なんて2人の動向を見守った。