第62章 【シンガッキノケツイ】
「みんな、おっはよーん♪」
「英二ー、元気だったー?」
教室に着くと英二くんは元気いっぱいに出迎えるクラスメイトたちのところに合流していった。
あっ……、そう離れていく背中に少し寂しく思っていると、チラッと振り返った英二くんの口元が、ガンバレ!、そう小さく動いてニッと笑った。
ありがとう、英二くん、頑張るよ……
うん、頑張らなくちゃ、今日は私、市川さんに謝るために来たんだから……
「なんだよ、英二、さっき昇降口のほうに戻ってなかったか?」
「あー、うん、ちょっとねー」
バッグの中身を机の中に閉まってから、いつものように本を開いたところで聞こえてきたその会話。
ハッとして英二くんに視線を向けると、クラスメイト達と久々の再会を楽しんでいる彼と目があった。
英二くん、不二くんとのことで固まっちゃった私のこと、助けに来てくれたんだ……
ありがとうございます、今度は私がそうこっそり唇だけを動かして微笑んだ。
広い教室、誰も気が付かない中、私たち2人だけのコンタクト。
くすぐったくて、本ににやける顔を必死に隠した。
ドキドキする……
時間が進むに連れて、どんどん増えてくるクラスメイト達。
比例するように心臓があからさまに速度をあげて、本を持つ手が小刻みに震えてくる。
もうすぐ市川さんが登校してくる時間……
汗ばむ手を何度もハンカチで拭う。
「おはよー、美沙!」
教室内から聞こえた声にハッとして顔を上げると、目の前のドアから、おはよう、と笑顔で入ってきた市川さんと目があった。
「おはよう、小宮山さん」
あ……、挨拶しなきゃ……、それから、ごめんなさいって今までのこと謝って……
せっかく市川さんから挨拶してくれたのに、言いたいことは沢山あっても口元だけがパクパクして、どうしても声が出てこなくて、結局、俯くしかできなくて……
そのうち、美沙ー、そうクラスメイトの呼ぶ声に、なにー?と市川さんは返事をして立ち去った。