第62章 【シンガッキノケツイ】
「キャー、不二くん、インハイ優勝おめでとう♪」
教室に向かう途中、次々と不二にそうインターハイ優勝の賛辞が飛んでくる。
その1つ1つに不二はにこやかな笑顔で応える。
「あーあ、いいよな~、天才は」
「ほーんと、簡単に全国制覇が出来るんだからな」
天才、不二周助____
良くも悪くも、不二について回るその代名詞。
すっかり馴れているとは言え、天才の一言で片づけられてしまう不二の気持ちを思うと、チッと心の中で舌打ちをする。
ま、オレだって中学んときは、何も考えず「天才」ってよく不二に言っちゃってたけどさ……
あの頃の無神経な自分にいらついて、ちょっとおまえら~!、そう声を張り上げようとした瞬間、いいんだよ、英二、そう不二に肩を掴まれ制止された。
「天才って酷い……、不二くん、あんなに努力してるのに……」
努力で勝ち取った栄光じゃないですか……、そうポツリと後ろで小宮山が呟く。
そんな小宮山の言葉にハッとして不二と同時に振り向いた。
「え、あ、ごめんなさい……、私、変なこと言っちゃいました……?」
目を見開いた不二のその様子に小宮山は戸惑って不安そうな顔をする。
ううん、ありがとう、嬉しいよ……、そう小宮山にお礼を言う不二は本当に穏やかで嬉しそうで……
そんな不二と、よく意味がわかってない様子の小宮山からそっと視線を反らせた。
「不二、じゃーねー」
不二の教室の前で手を振って別れると、不自然にならない距離で小宮山と教室に向かう。
それから思い出すのは、先ほどの不二の小宮山に向ける笑顔。
本当、オレに対してもそうだけど、小宮山は何も知らないくせに人の内面にどんどん踏み込んできて、ピンポイントで気持ちを揺さぶっていく。
不二の小宮山への想いがまた深くなったのを確実に感じて、複雑な思いが胸をよぎる。
チラッと視線だけ小宮山にむけると、目があった小宮山は恥ずかしそうに俯いた。