第62章 【シンガッキノケツイ】
学校までの道のり、いつもの公園の前で立ち止まる。
まだ鳴り止まない胸のドキドキに携帯をとりだして英二くんとのLINEを開く。
何気ないやりとり、今朝も交わした朝の挨拶、ダイジョーブイ!、英二くんからのブイサイン……
緊張から口をつくため息を深呼吸に変えた。
学校が近づくに連れて、周りは青学の生徒たちで溢れかえる。
おはよー、久しぶりー、何してた?、そんな楽しそうなやりとりを聞きながら、大丈夫……大丈夫……、そう何度も自分に言い聞かせる。
校門を潜り、昇降口でクラスの靴箱へと向かうと、慣れ親しんだ後ろ姿に、あ……と立ち止まる。
不二くんだ……
おはようございます、そう声に出し掛けて、それから、英二くんの顔を思い出し、どうしようかな……?、そう少し悩む。
英二くんは学校で普通にしているのは構わないって言ってたけど……
でも本音はどうなんだろう……?
英二くんのことを考えると、今までのように気軽に不二くんに声を掛けるのに戸惑って、でも不二くんを無視するのは違う気がして、だいたい、生徒会執行部でも一緒だし、一切関わらないなんてできっこなくて……
いろいろ考えすぎて戸惑っていると、そんな私の気配を感じ取ったのか、前を歩く不二くんが振り返った。
私の存在に気がつくと、目を見開いて、それからいつもの優しい笑顔になる。
「おはよう、小宮山さん」
「……おはようございます、不二くん」
自然とほころぶ頬、あっ、とまた迷ってぎこちないものになる。
そんな私に不二くんも少し戸惑って、それから少しだけ目を伏せたように感じた。
どうしたらよいか分からなくて、不二くんも困っているようで、不二くんに申し訳ないなって思うんだけど……
でも身体が固まってしまって、教室に向かうことも出来なくて、その場で立ち止まったまま俯いてしまう。
そんな私達の間を、不思議そうな顔をした生徒たちがチラッと振り返りながら追い越していった。