第62章 【シンガッキノケツイ】
よし、身だしなみ、大丈夫……
部屋のドレッサーの前、久しぶりに袖を通した制服で全身を確認する。
クリーニングから戻ってきた、パリッとしわ一つ無い制服に身を包むと、気持ちも自然と緊張感に溢れて来る。
机を開けてこの間英二くんから返してもらった……というか、強引に取り戻したメガネを手に取ると、ちょっと考えてそれを通学用のバッグにしまう。
もう意味はないけれど、もしかしたら必要になるかも知れない……
ゆっくりと深呼吸してもう一度鏡の中の自分と向かい合う。
どうか勇気が出ますように……
「行ってきます、お母さん、ネコ丸」
「行ってらっしゃい、気をつけてね?」
玄関でお母さんとネコ丸に笑顔で挨拶する。
久しぶりに戻ってきたいつもの朝の光景。
夏休み中は毎朝私が出社するお母さんを見送っていたけれど、今日からはまた私の方が先に家を出る。
夏休み明け、新学期。
頑張ろう……空を見上げ、空の眩しさに目を細めながら、キイッと門扉を開けて一歩踏み出す。
学校に着いたら、真っ先に市川さんに謝ろう……
さんざんひどい態度をとったこと……
許して貰えないかも知れないけれど……
たとえ許して貰えなくても、ちゃんと謝らなくちゃ……
何度も私を気に掛けてくれた市川さん。
優しく、強く、救いの手をさしのべてくれたのに……
その度に自分の弱さからその手をはねのけてしまった……
ドキドキする……震える胸をギュッとおさえる。
璃音?、お母さんがその背中に不安そうな声を掛ける。
スーッと息を吸って笑顔で振り返る。
「大丈夫だよ、決意してただけ……」
そんな私に、夕飯は璃音の好きなトマトソースのパスタにする?、そうお母さんは安心できる笑顔を見せてくれるから、やった、そう英二くんのように少し声を弾ませて返事をした。