第61章 【セイチョウ】
そんな顔、させたいわけじゃないんだって……
真面目な小宮山の極端な考え、そっと頬にふれて顔を上げさせる。
「別にそこまでしなくていいよん、ただ、ちょっとヤキモチ妬いただけだからさ?」
学校で普通にするくらいなら、オレ、ぜんぜん平気だよん?、そう言ってニイッと笑うと、小宮山は少し頬をゆるませた。
「でも英二くん、不二くん、好きな人がいるんですよ……?」
ふと思い出したように小宮山がオレの顔を見上げて言う。
あー……、うん、知ってる……、そう少し低い声で視線を逸らす。
「だったら、そんなに心配しなくても……、私なんかとどうにかなったりしませんよ……?」
知ってる、不二に好きな人が居るってことも、それが小宮山だってことも……
知ってるから、尚更、オレは心配になるんじゃん……
不二は、男のオレからみてもすげーかっこよくて、頭も良くて頼りになって、そんでもって、本当にすげーいいやつだから……
それは一緒にテニスをしていたオレ達が、一番良く知っていることだから……
「……小宮山、不二の好きな人って、誰か知ってる……?」
「え……?、あ、いいえ、そこまでは知りませんけど……」
辛い恋らしいことは何となく知ってますけど……、そう不二の気持ちを思って辛そうな顔をするから、小宮山がんな顔する必要ないじゃん?、そう前髪をクシュッと握るように撫でる。
「そうなんですけど、不二くんには幸せになって欲しいんです……」
うん、オレもそう思うよ……
ギュッとその身体をキツく抱きしめると、英二くん……?、そう小宮山は不思議そうな顔でオレを見上げた。
「小宮山は……?、小宮山はオレになんかして欲しいこと、ない?」
シャワーを浴びた小宮山の髪を乾かしながら、ドレッサーの鏡越しに問いかける。
良くあるラブホのシャンプーの香り、小宮山がさせると何故か途端に甘く魅力的なものになる。
クンクンと鼻を近づけ匂いをかぐと、小宮山は恥ずかしそうに頬を赤らめて、それから、して欲しいことって……?、そう意味が分からない様子で首を傾げた。