第61章 【セイチョウ】
ジリジリと照りつける夏の日差し、コツコツとアスファルトに響くヒールの音、一度も振り返らない英二くんの背中……
そんなに急いで、いったいどこに行くの……?
進んでいるのは図書館とも家の方向とも違う、普段、全く寄り付かないような駅裏の狭い路地……
夜には華やかなあかりが灯るであろうその場所は、まだ人の出入りも殆どなく、チラホラと開店の準備を始める人が見え隠れする程度……
そんな裏路地の奥、英二くんが立ち止まったのは少し落ち着いた雰囲気のお洒落なホテル。
ここって、雰囲気は落ち着いているけれど、普通のホテルなんかじゃないよね……?
まだ明るいから目立たないだけで、しっかりとライトアップされている看板には空室の文字。
ラブホ……?、思わず立ち尽くし身体を竦ませる。
どうして……?、そう私の疑問に振り返った英二くんは、やなの?、そう少し低い声で問いかけた。
有無を言わせないその低い声にズキンと胸が痛む。
条件反射で俯いた顔をなんとかあげると、嫌じゃないけど……、そう必死に首を横に振る。
「でも……私達、まだ高校生ですから……」
「私服だから黙ってりゃわかんねーって……」
「なにもお金出さなくても……私の家、大丈夫ですよ……?」
「オレは今すぐヤりたいの!」
いいから堂々としててよね、怪しまれたら面倒だから、そう言って英二くんは私の肩に腕を回すと、自動ドアをくぐり抜けエントランスへと進んでいく。
慣れた手つきてパネルのボタンを押すと、ガシャンと自動で出てきた鍵を手に歩き出した。
バクバクする……
英二くんがこうなってしまえば、もう私は英二くんに従うしかなくて……
肩を抱えられながら、必死に英二くんの歩幅にあわせて足を動かす。
エレベーターに乗り込み、扉が閉まった途端重ねられた唇……
すぐにこじ開けられて舌が絡みついてくるそれは、まるで噛みつかれるようなキス……
ギュッとその胸のシャツを必死に握りしめた……