第61章 【セイチョウ】
ざわざわと遠くで聞こえる人混みのざわめき、すぐ近くでそれを打ち消す少し早い鼓動。
突き刺さるように感じる視線から英二くんが包み込んで隠してくれる。
隠してくれると言うより、英二くんか抱きしめたりするから、視線を集めちゃっているんだけど……
恥ずかしくて必死に抵抗した腕の力を弱めたのは、英二くんの身体が小刻み気震えているのに気がついたから……
それは今までに何度か感じたのと同じ……
英二くんの心に過去の闇が迫ってきた時に見せる不安からの症状……
抵抗をやめてギュッとその背中に手を伸ばした。
「英二くん、ごめんなさい……」
謝るの禁止だけど、ちゃんと謝らなくちゃ……
プラネタリウムが始まって、会場が暗くなった途端、英二くんにキスされて……
何とか深いキスは阻止したけれど、それでも会場に響いた私の声とリップ音に頬を赤らめた。
全くもう……、そう呆れると同時に、待ち合わせ場所に英二くんが隠れていたときも思ったけれど、やっぱり不二くんと出掛けるの嫌だったよね……?、なんてヤキモチ焼きの英二くんの気持ちを考えなかったことを激しく後悔した。
プラネタリウムが楽しみで、私ったらなにも考えないで、でも考えたら英二くんがよい気がしないの、当たり前だよね……
私、本当にこう言うところ、ダメだな……
英二くんの震える腕の中に包まれながら、そう自分の無神経さにため息をついた。
ふと英二くんの腕の力が弱まり、その胸から解放される。
その代わりギュッと握られた手のひら。
離れないようにしっかりと絡められる……
「小宮山、行くよ……?」
「え?、あ、はい……」
行くってどこへ……?、なぜかそう聞けない雰囲気の英二くんの背中をただひたすら眺める。
いつもより速い速度は、私の歩幅を無視している証拠。
必死にパタパタと足を前後させる。
怒ってる……?、ううん、違う、私、英二くんを傷つけたんだ……
黙々と進む背中を眺めながら、自分の浅はかさをもう一度後悔した。