第60章 【クラヤミノナカデ】
「あ、不二くん、待ってください!」
それじゃ、また、そう笑顔で2人に背中を向けると小宮山さんに呼び止められて振り返る。
バッグを覗きながら、彼女がパタパタと駆け寄ってくる。
どうしたの?そう不思議に思って問いかけると、あの、これ……、そう言って可愛くラッピングされた包みを取り出した。
「これ……僕に?」
「はい、ブックカバーなんです、私がいつも使っているのと同じ……、とても手に馴染んで使いやすいので……」
目を見開く僕に、インターハイ優勝のお祝いです、そう小宮山さんは少し恥ずかしそうに笑う。
「……お祝いなら、この間貰ったよ?」
「はい、でもお花はいつかしおれちゃいますから……」
先程のパンフレットのお礼も兼ねて……、そう言って柔らかく笑う小宮山さんのその優しさが嬉しくて、それと同時に押し寄せた切なさから涙が滲んで慌てて目を伏せる。
小宮山さん……本当にキミって人は……
諦めなくてはいけない想いはとても止められそうになくて、あ、あの……?、そう僕の様子に小宮山さんは不安そうな顔をするから、グッと拳を握りしめてその包みに震える手を伸ばす。
「ありがとう……大切にするよ」
振り絞る僕の笑顔、小宮山さんもそれに応えてまた笑う。
ああ、今、ここに英二がいてくれて本当によかった。
そうじゃなきゃ、きっと我慢できなかっただろうから……
英二が今、僕らを節目がちに見ていなければ、僕は小宮山さんを抱きしめたいと言う衝動を、抑えることが出来なかっただろうから……
「小宮山、やっぱオレ、図書館付き合うからさ……?」
「え……?でも英二くん、本を枕にして寝そうなので……」
2人に背を向けて歩き出すと、そんな会話が聞こえてくる。
ギクッ、そう、あからさまな声を上げる英二に、ギクッってなんですか、ギクッて、そうクスクス笑う小宮山さんの声を背中越しに聞きながらプラネタリウムを後にする。
ドアをくぐる寸前、一瞬だけ2人の様子を振り返る。
これ、もうとるよ、そう言って英二が小宮山さんの髪留めを外しているのがみえた。