第60章 【クラヤミノナカデ】
「小宮山さん、パンフレット、読みたい?」
受付でお目当てのギリシャ神話のプログラムのチケットを購入し、それからパンフレットも買って小宮山さんに手渡す。
「あ、あの、お金……」
相変わらず小宮山さんは財布をとりだしてそう申し出るから、いいよ、僕も読みたいし、一緒に見よう?、そう笑顔でそれを断る。
でも……、そう少し戸惑った小宮山さんは、ちょっと考え込んで、ありがとうございます、そう控え目に笑顔を向けてくれた。
開演までベンチに座り小宮山さんと一緒にパンフレットを覗き込む。
2人で同じパンフレットを読むと、前髪同士が触れそうなその距離と、フワッと香る甘い香りにクラクラする。
いつもより速く脈打つ鼓動を悟られないように、必死に平静を装った。
そんな僕らの横で携帯を眺めながら、英二がチラチラとこちらを気にしている。
「小宮山ー、みてみてー、ハイスコア~!」
「え?、あ、はい、凄いですね」
気を引こうと服の裾をチョンチョンと引っ張り携帯の画面を見せるも、そもそもゲームには全く興味のない小宮山さんに軽くあしらわれて、英二は面白く無さそうに頬を膨らませていた。
入場が始まり、ギリシャ神話の話をしながら席に向かうと、そのままの流れで小宮山さんと並んで座ろうとする。
「……小宮山、こっち」
「あ、はい……構いませんけど……?」
小宮山さんの腕をグイッと引いて、英二は僕の隣から小宮山さんを引き離し、自分の背中に彼女を隠すとジッと僕の目を真顔で見る。
小宮山は、オレんだから____
目があった数秒の沈黙の間、英二のその真剣な眼差しが僕にそう釘をさした気がした。
クスッ、英二、今、空港で香月くんを睨みつけたあの時とすっかり同じ目をしているよ?
そんな僕の笑顔に構わずに、英二はゆっくりと小宮山さんの方に振り返り、それ、オレにも見せてよ、そういつもの笑顔で笑いかけた。