第60章 【クラヤミノナカデ】
さっき逆ナンしてきた女の子は、僕に軽くあしらわれたあと、シンボルツリーの後ろでこっそり様子を伺っている英二に声をかけていた。
とりあえずその気が無くても、連絡先を交換してその場をしのぐのが英二のいつものパターン。
その後、気が向いたら連絡してオトモダチになることもあるし、それっきりの場合もあるし……
だけど小宮山さんと付き合うと決めたなら、連絡先を交換すること事態、どうかと思うけどね……?
そんな思いを込めてクスクス笑いかけると、英二はますます青い顔をして、それから小宮山さんの方を気にしながら、シーシーと人差し指を口に当てて慌てていた。
……小宮山さんに知られて困るなら、最初からしなければいいのに……
そんな英二の態度に、仕方がないな、そう思う反面、イラッとした気持ちが胸の奥で渦巻き出す。
「小宮山、ごめーん、ちょーっと待っててくれる~?」
キョトンとした顔の小宮山さんに、英二は引きつった笑顔を見せて、僕の肩に手を回し少し離れたところまで誘導すると、小宮山さんに背をむけたまま声を潜めて話し出す。
「ふ、不二、これはさ、浮気なんかじゃなくてさ……」
「なに?もうB級グルメやジャンクフードが恋しくなったの?」
以前、小宮山さんのことを高級料理に例え、オトモダチをB級グルメやジャンクフードと言った英二……
『不二だってしょっちゅう高級料理ばっか食べてたら、たまにはB級グルメやジャンクフードが恋しくなるじゃん?』
一人の女性で満足できない英二らしいそのセリフ……
鋭い視線で英二を睨みつけると、違うってば、なんて大きく首を横に振りながらそれを否定する。
「見つかんないように隠れてたからさ、さっさと終わらせたかっただけなんだって!」
青い顔をして言い訳をする英二に、どうだか……、そうため息をつくと、あの……、といつの間にかすぐ後ろにいた小宮山さんに声を掛けられて、はひっ!そう英二は慌てて肩を跳ねさせた。