第60章 【クラヤミノナカデ】
「ごめんなさい、あの、お待たせして、しまいましたか……?」
「ううん、大丈夫だよ、僕も今来たところだから」
息を切らしながら走ってきた小宮山さんは、僕のその言葉にホッとした顔をして、それから、ちょっと、待って、下さいね、そう言って息を整えながら大きく深呼吸をする。
「あ、もしかして、不二くん、さっき逆ナンされてました……?」
「ああ、見てたんだ?」
苦笑いしてチラッとさっきの子に視線を向けると、僕に断られたばかりだというのに、既に別のターゲットと連絡先を交換していた。
「さすが不二くんですね、断るのも手慣れた感じでしたよ?」
そう言ってクスクス笑う小宮山さんは、控え目なメイクとくるんと丸めたハーフアップの髪を、僕が選んだ髪留めでまとめていて、それによく似合うゆるふわのサマーニットとフレアスカートは、明らかに髪留め有りきでコーディネートされていて……
まったく……その小宮山さんの無自覚な気遣いは、本当に罪作りだよ……
「ああ、やっぱり小宮山さんによく似合ってる……」
そっと髪留めに手を伸ばし、その髪に触れる直前になんとか思いとどまる。
流石にここで小宮山さんに触れるわけにはいかないか……
伸ばした手をギュッと握りしめそのまま下ろす、そんな僕の様子を小宮山さんは不思議そうな顔で見上げた。
「……じゃあ、行こうか?」
そっと笑いかけて促すと、あ、はい、そう小宮山さんは大きく頷いて、凄く楽しみですね、そう言って目を輝かせる。
そんな小宮山さんに頬をゆるませながら、一緒にプラネタリウムの方向へと歩き出す。
「……ほら、英二も」
数歩進んでぴたりと立ち止まり、そう大きく声をかける。
その僕の言葉に、シンボルツリーの反対側でこちらの様子を伺っていた英二が、ギクッと肩を振るわせた。