第60章 【クラヤミノナカデ】
玄関から外にでた途端、眩しい空に目がくらんだ。
手で日除けを作りながら、目を細めて空を見上げる。
そのまま瞳を閉じると、また暗闇に意識が取り残されていく____
何も見えない、何も聞こえない、何も感じられない暗闇の中、浮かんできたのは小宮山さんのこと。
あの後、小宮山さんは英二を無事に見つけられたようだ。
2人から時間差で入った「ありがとう」のLINE。
決勝戦前、確認して胸をなで下ろした。
良かった……これで、英二は救われる……
本当に……良かった……
心からそう思っているのに……
どうしてこんなに苦しいのだろう____?
前のめりに倒れ込んだコートに、汗とは別の水滴が染み込んでいく。
不二くん____
暗闇の中、小宮山さんが僕に笑いかける。
『はい、インターハイで怪我などしないで、実力を発揮できますようにって……、私に祈られなくても不二くんなら大丈夫でしょうけど……』
終業式の後、英二に振り回されて涙を流す君を連れ出し、自宅へと送る途中に寄った小さな神社。
何を祈ってたの?そう問いかける僕に見せた恥ずかしそうなその笑顔。
自分が傷つき苦しいときに、僕の事を願ってくれたそんな小宮山さんの気持ちが嬉しくて、勝つよ、必ず、そう自分の心に強く誓った。
差し出した手を小宮山さんがとってくれた。
今だけ、今だけだから……、その手を強く握りしめた。
ピクッと右手がかすかに動いた。
これは……この手に握っているものは……
大石のラケット……
そうだ、小宮山さんを助けるために、あの英二がこれでボールを打った……
『英二の想いと一緒に戦いたいんだ』
英二……
そうだね、英二には小宮山さんしかいないから……
小宮山さんにも、英二しかいないから……
『必ず、勝って下さいね?』
暗闇に響く小宮山さんの声、携帯の向こうで僕の願いに応えてくれたその声援。
浮かんでくる笑顔が更に光を放つ。
『勝って下さいね?』
……小宮山さん……
『勝って下さいね?』
____小宮山さん!!